ライティングレール設置後の注意点|ショート事故で通電部が溶けたら起こる本当の危険

「使えているから大丈夫」は危ない。ライティングレールの本当のリスクとは
おしゃれで便利なライティングレール(ダクトレール)。見た目もスッキリしていて、照明器具を自在に取り付けられることから、店舗や住宅のインテリアにもよく使われています。
ですが――
その中に電気が流れていることを、忘れていませんか?
私はこれまでに、ライティングレールを原因とするトラブルの現場をいくつも見てきました。その中でも特に危険だったのが、「見た目をきれいにしたいから」と金属ワイヤーをレール内に押し込んだことによるショート事故です。

しかも、その後に起きた“通電部の溶損”が、さらに深刻な火災リスクを招いていました。
「とりあえず点いてるし、問題ないでしょ」
そう思ったあなたにこそ、ぜひ読んでいただきたい内容です。
この記事では、
・ライティングレールで実際に起きた事故例
・ショート後に“溶けた通電部”を使い続けることの危険
・火災につながるメカニズムと進行のサイン
・正しい対処法(交換が必要な理由)
について、電気工事士の立場からわかりやすくお伝えします。
ライティングレールは「常時通電している電気設備」です

ライティングレールを単なる“照明を吊るすための道具”と思っていませんか?
見た目はスリムでスタイリッシュでも、中身はれっきとした電気設備です。
実際、ライティングレールの内部には、常に電気が流れています。
構造としては、以下のようになっています。
- 金属製の導体がレールの左右に設置されている
- それらが樹脂でしっかりと仕切られている
- 接続は、専用の照明プラグを使う前提
つまり、「触れることがない」前提で安全が保たれているのです。
この構造を知らずに、「少しだけなら大丈夫」と金属を入れたり押し込んだりすると――
一瞬でショートが発生します。
「金属棒」「吊りワイヤー」「針金」など、電気とは関係のない部材でも、内部の導体に触れた瞬間、感電・火花・発熱といった重大なトラブルにつながるのです。
次のセクションでは、実際に起きたショート事故の具体例をご紹介します。
実際に起きたショート事故|装飾用ワイヤーが火花を呼んだ瞬間

ある現場での出来事です。
照明とは別に、インテリアとして吊るす装飾用の金属ワイヤーがありました。
「ライティングレールの溝に収めれば、見た目がすっきりする」――そんな理由で、電気に関係ないそのワイヤーをレール内に入れようとしたのです。
結果は、ショート。
レール内部の通電部に金属ワイヤーが接触し、バチッという音と共に火花が発生、ブレーカーが瞬時に遮断されました。
このとき、幸いにも火災には至りませんでしたが、レールの内部では通電部が部分的に溶けてしまっていたのです。
見た目では、ほとんどわかりません。
「一応、点いてるから大丈夫」と、そのまま使い続けていたら――。
気づかないうちに、火災のリスクが着実に進行していた可能性が高い事例です。
次のセクションでは、この「溶けた通電部」が引き起こす5つの危険について解説します。
溶けた通電部が引き起こす5つの危険

レールの通電部がショートによって一部でも溶けてしまうと、そこから先は「静かに進行する危険ゾーン」に入ります。
一見、問題なく点灯しているように見えても、内部では深刻なトラブルが起き始めているのです。
以下に、実際の現場でも確認された5つの危険な現象を紹介します。
① 局所発熱による火災の前兆
通電部が溶けて変形すると、器具のプラグとの接触が不均一になります。
その結果、電気の流れにムラが生じ、抵抗が大きくなった部分が局所的に発熱します。
これはすぐにブレーカーが落ちるような症状ではありません。
むしろ、時間とともに徐々に悪化する「進行型のトラブル」です。
② 照明器具側の破損
発熱や不安定な通電が続くと、照明器具そのものにもダメージが及びます。
- プラグ端子が焼けて変色
- メッキが剥がれる
- 接触圧が低下して固定できなくなる
最終的には、照明器具ごと使えなくなる可能性があります。
つまり、レール交換だけで済まなくなるわけです。
③ 微小スパークの発生
「パチッ」と小さな音がする
「点灯時に一瞬ちらつく」
「うっすら焦げ臭い気がする」
これらは、見えない微小スパークが発生しているサインです。
この段階で放置すれば、いずれ火災に至るリスクが高まります。
④ トラッキング現象による発火
発熱が続くと、レール内部の絶縁樹脂が劣化・炭化し、そこにホコリや湿気がたまることで“電気を通す状態”になってしまいます。
これが「トラッキング現象」です。
最悪の場合、ブレーカーが落ちる前に発火が起きるという非常に危険な状態になります。
⑤ 天井面は異常に気づきにくい|見逃されやすい火災の兆候
ライティングレールは、基本的に天井面に取り付けられます。
普段の生活では意識が向きづらい場所だからこそ、異常に気づくのが遅れる傾向があるのです。
- 点灯時に見上げないと様子が分からない
- わずかなスパーク音や焦げ臭に気づきにくい
- 外出中や就寝中に発熱が進行する可能性も
こうした見えにくさは、火災リスクを高める要因のひとつです。
特に、高齢の方や視力の弱い方にとっては、**「気づいたときにはすでに発煙していた」**という状況も考えられます。
だからこそ、異常があったときは「様子を見る」のではなく、すぐに使用を中止し、専門業者に相談することが大切です。
次のセクションでは、「一応点いているけど問題なさそう」という判断がなぜ危険なのか、さらに深掘りしていきます。
「一応点いているから大丈夫」は最も危険なサイン

実は、電気工事の現場で一番怖いのが、このセリフです。
「なんか焦げ臭い気がするけど、まだ点いてるから…」
「一瞬パチッと音がしたけど、普通に使えてるし…」
「少しだけ溶けただけだから、問題なさそう」
こうした判断が、重大な事故を引き起こす引き金になります。
なぜなら、
電気の異常は“徐々に進行する”性質があるからです。
- 見た目では異常が分からない
- 一時的に復旧してしまう
- ブレーカーも落ちない
そのため、「点いている=安全」と思い込みやすいのです。
ですが、通電部がすでに変形・溶損している状態で使用を続けると、前章でお伝えしたような火災のリスクが確実に高まっていきます。
特に天井裏のような見えない場所で進行する火災は、気づいたときには手遅れになるケースもあります。
「一応点いている」ではなく、
**「異常があった時点で使わない」**ことが、命を守る最も重要な行動です。
次のセクションでは、正しい対処方法と、安全に使い続けるための選択肢をお伝えします。
正しい対処方法|再使用はNG、本体交換が原則です

ライティングレールの通電部が一度でもショートにより溶けてしまった場合、そのレールは“再使用不可”です。
「ちょっと削れば使えるかも」
「曲げ直せば問題ないのでは?」
「接点クリーナーで掃除すれば…」
このような“応急処置”は、すべて危険です。
理由はシンプルです。
内部の構造が破壊されている状態では、もはや安全性を確保できないからです。
・導体と絶縁体のバランスが崩れる
・再びショートが起きやすくなる
・接触が不安定なまま発熱する
つまり、見た目がきれいでも火災のリスクを抱えたまま使うことになるのです。
私の現場経験でも、「削って使ってたら、後から器具側が壊れた」「気づかないうちに炭化して、天井裏から煙が出ていた」といった声を聞いたことがあります。
安全に使い続ける方法は、唯一「本体の交換」しかありません。
レールごと新品に取り替え、通電部分が完全に正常な状態であることを確認する――これが、事故を防ぐ確実な方法です。
まとめ|ライティングレールは“おしゃれ”ではなく“電気設備”です

ライティングレールは、照明をおしゃれに見せるアイテムである一方で、常時通電している電気設備でもあります。
このことを忘れて「見た目優先」で扱ってしまうと、思わぬ事故や火災につながりかねません。
特に、以下のような行為は絶対に避けてください。
- レールの溝に金属ワイヤーや棒を入れる
- 内部の変形を削って使い続ける
- 異常があっても「一応点いてるから」と放置する
こうした“なんとなく”の使い方が、深刻なリスクを引き寄せます。
設置後には、必ずこう伝えてください。
「この中には電気が流れています。金属類は絶対に入れないでください。」
この一言で、防げる事故は本当に多いのです。
もし異常を感じたら、迷わず専門の電気工事士にご相談ください。
安全第一で、安心して使える空間づくりを心がけましょう。


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